だ。」梅三爺は今日もこんなことを思い続けているのであった。
市平がいなくなって以来、彼のことは殆んど思い諦《あき》らめ、折々思い出しても、ただ身の上を案じているに過ぎなかったのだが、最近になって、ああして手紙を寄越されて見ると、梅三爺は市平を呼び寄せたいような気がした。腰が痛み、身体《からだ》が草臥《くたび》れるにつけても、「あの野郎せえいれば、俺もこれ、じっかり楽なんだが……」と思わぬわけには行かなかった。世間の噂が、竜雄と市平とをいい対照にしているように、それは梅三爺の心からも離れないことであった。
「畠おこすがね?」と遠くから、聞き慣れない声で呼び掛けるものがあった。
梅三爺は唐鍬の柄《え》を突っ立て、その声のする方を見た。誰かが此方《こっち》に近付いて来た。併し冬籠りの小屋に漂う煙と、過激な労働の疲労で、すっかり視力の衰えた、赤く爛《ただ》れた彼の眼は、判然とそれを見ることが出来なかった。
「ヨーギ。誰だ?」
梅三爺は、※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》く眼と共に口まで開いて、低声《こごえ》でこう訊《き》いた。
「誰だべ? ――郵便配達《ゆうびんへえたつ
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