ないのだ。
併しヨーギは十二の少年ながら、一層元気に、草を刈り灌木を伐り倒して、父親の鍬先を拓《ひら》いて行った。よし[#「よし」に傍点]は黒奴《くろんぼ》の小娘のように、すっかり土にまみれながら、父親が土の中から掘り出した木の根を、一本ずつ運んで行って、冬籠りの薪を蒐《あつ》める役を、自ら引き受けていた。
梅三爺は、自慢の重い唐鍬《とうぐわ》を振り上げ振り下ろしながら、四年前に、――この村にいたのでは、何時《いつ》まで経ってもうだつ[#「うだつ」に傍点]があがらないから、どこか、遠くへ行って、一辛抱《ひとしんぼう》して、自分の屋敷だという地所を買い求めるぐらいの小金でも、どうにかして蓄《た》めて来たいと思うから。――という書き置きをして行方《ゆくえ》を晦《くら》ました伜《せがれ》の市平《いちへい》のことを思い続けた。「あの野郎も、手紙ではいいようなごとを言って寄越したが、どんなごどをしてがるんだか? 天王寺《てんのうじ》の竜雄《たつお》さんなんざあ、中学校を出て、東京で三年も勉強してせえ、他所《よそ》さ行ったんじゃ、とっても駄目だって帰って来たじゃ。あの野郎も、帰って来っといいん
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