として言った。
「身体《からだ》を大切にして、丈夫でろな父《おど》! 俺《おら》、毎月、五円ずつは送っから……」
こう言った市平の眼も、薄暗いカンテラの灯影《ほかげ》に、ちかちかと光っていた。
貧しい生活の中に、いよいよ残して行かれるとなると、さすがに梅三爺は、一緒に従《つ》いて行きたいような気がした。――併し彼には、土を見限って光の中に出て行くもぐらもち[#「もぐらもち」に傍点]、再び土に帰ることを許されないもぐらもち[#「もぐらもち」に傍点]の悲哀があった。土から生まれて土に生きて来た彼にとっては、土こそ彼の一部であった。彼には、土の無い生活は想像も出来なかった。
どうしても一番の汽車に間に合いたいからと、市平はまだ夜のうちに開墾場の小屋を出た。
「今度は、いつ逢えるがも判《わ》がんねえ。俺《おら》も、その辺まで送って行ぐべで……」
梅三爺は、やはり瞼に涙を溜めて、ヨーギとよし[#「よし」に傍点]は、大丈夫眼を覚まさないからと、市平がとめるのを無理に送って出た。
戸外《そと》は朧夜《おぼろよ》であった。月は薄絹に掩《おお》われたように、懶《ものう》く空を渡りつつあった。村
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