こ置いで俺だって、何も北海道きって行きたく無《ね》えげっとも……」
市平は途切れ途切れにこう言ったが、ここまで来ると、重苦しいものの胸に横たわるような感じに、すっかりその言葉を遮《さえぎ》られてしまった。そして彼は、瞼《まぶた》が段々熱くなって来るのを意識した。
「ヨーギ。天王寺さ行って、糯米《もちごめ》買って来《こ》うちゃ。兄《あん》つあんさ、百合《ゆり》ぶかし[#「ぶかし」に傍点]でもして食《か》せべし。」
炉傍に寝転んでいたヨーギは、すぐに起きかえった。
「何升や?」
「二升も買って来《こ》う。どっさり拵《こせ》えて……」
梅三爺は、紙に包んで帯に巻き込んでいた金を取り出してヨーギに渡した。ヨーギは汚れた風呂敷を背負って、すぐに出て行った。
「ほんでは市平、俺《おら》は、少し百合《ゆり》掘って行って来《く》っかんな。」
「うむ。――父《おど》も、こうして難儀してより、思い切って、北海道さ行げばいいのに!」
鎌を持って出て行く父親の背後《うしろ》から、市平は独り言のように呟いた。
梅三爺は、いろいろ考えて見たが、どうしても生まれた土地から離れる気にはなれなかった。北海道に
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