、天気がいいがら、少し稼いで来《こ》んべで。――まだ、話は晩にでも出来んのだから……」
「俺《おら》は父《おど》、明日の朝|出発《たつ》のだで。」
「明日の朝? 魂消《たまげ》た早えもんだな。もう少しいでも宜《よ》かんべどきに……」
梅三爺は爛《ただ》れた眼をぱちくりさせながら、一度手にした唐鍬を置いて、炉傍《ろばた》に戻って来た。そして煙管《きせる》をぬき取った。
「ほだって、俺も忙しいがんな。みんな待ってべがら。」
「なんぼ忙しくたってさ。」
梅三爺は少しむっとしたようであった。
「天王寺の竜雄さんなんざ、百姓に限るって、あの人達こそ百姓などしねえでもいい人達なんだが、ほんでもあれ、生まれた土地がいいどて、ああして帰《けえ》って来てんのだぢあ……。どういうわけだべな? 汝《にし》は、他国さばり行ぎだがって……。俺《おら》もこれ、近頃は弱ってしまって……」
梅三爺の爛《ただ》れた眼には涙が湧いて来た。それが静かに頬の上にあふれて来つつあった。
「俺《おら》だって父《おど》、好ぎで行ぐわけでねえちゃ。竜雄さん等みてえに、自分の好ぎなごとしていで、ほんで暮らしが出来っこったら、父ど
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