いっちが、ほんでも帰《けえ》って来ることが出来ねえのだぢゅうでや。なんちたって、生まれだ土地が一番いいがんな。何《なん》が無《ね》えたって……」
 話が暫く途絶《とだ》えた。市平も何も言わなかった。ただ涙含ましい空気が漂《ただよ》った。
「ほんでは父《おど》、俺《おら》、毎月《まいげつ》五円ずつ送って寄越すから。――毎月五円ずつ。」と言って市平は、顔の火照《ほて》るのを覚えた。
「そうが。ほんでは、父《おど》も辛抱して、汝《にし》あ出世して帰《けえ》るまで、ほんの少しでも、自分の土地だっちもの買って置くがんな。」
 彼等は、永小作の土地だけでは満足が出来なかった。――市平は何も答えなかった。併し、悲しい別れは再び約束された。

     五

 梅三爺はなかなか暇がなかった。せっかく市平が帰って来たのに、そして再びの北海道行きが約束されているのに、ゆっくりと話をする暇も無かった。薄暗い小屋の中に市平を残して。やはり唐鍬を担《かつ》いで朝早くから出て行かなければならなかった。
「少し休んだら? あ、父《おど》!」
 市平がこう言ったのは、彼が帰って来てから三日目の朝だった。
「ほんでもな
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