た。涙含《なみだぐ》ましくさえ思われた。そして親子四人は、暫くぶりで一枚の布団《ふとん》にもぐりこんだのであった。ヨーギとよし[#「よし」に傍点]とは、昼の疲れですぐ眠ってしまった。併し、梅三爺も市平も、心が冴えているようで、それに蚤《のみ》がひどいので、なかなか眠ることが出来なかった。二人は長い間、寝返りを打ち続けていた。
「父《おど》も、一人では、ながなが大変だべな。」
市平は、こう父親に話しかけた。
「うむ。ほんでな、俺《おら》は市平に、貴様が、せっかく出世しかけだどこだげっとも、一つ家《うち》へ戻ってもらうべかと思ってな。ほんで……」
梅三爺は遠慮勝ちな調子で言った。市平は、暫くの間黙っていたが、やがて、しんみりとした調子で言った。
「ほだら父《おど》、父《おど》も北海道さ行がねえが? 北海道さ行って、鉄道の踏切番でもすれば……! 踏切番はいいぞ、父《おど》!」
「鉄道の踏切番? 洋服《ふぐ》着て、靴はいでがあ? 俺《おら》に出来んべかや?」
「なんだけな、あんなごと、誰にだって出来る。汽車来た時、旗出せばいいのだもの。」
「ほだって俺《おら》、洋服《ふぐ》着たり、靴穿いだ
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