……。市平どこさ、手紙やりでえど思っても、その手紙が書けねえって言うんでがすから……」
梅三爺の訴えは涙含《なみだぐ》ましかった。
「市平君は、今どこにいるね?」
「あの放浪者《のっつお》は、今、北海道の、十勝の……先達《せんだって》手紙寄越して、表書きはあんのでがすが。――なんでも線路工夫してる風でがす。」
「ほう、線路工夫! ――市平君でもいれば、梅三|爺様《じいつぁま》も、随分助かるのにな。」
「ほでがす。あの放浪者《のっつお》がいれば……。連れ寄せべと思っても、なったら帰《けえ》って来がらねえし、今度は、親父が急病だってでも、言ってやんべかと思っていんのしゃ。」
「そりゃ、どうかして呼んだ方がいいね。いつまでも工夫していられるもんでもないし。――僕が一つ、きっと帰ってくるように、手紙を書いてやろうかな?」
竜雄はにやにやと笑った。
「どうぞは、お願いでがすちゃ。」と、梅三爺は二度ばかり頭を下げた。
四
竜雄が、市平に宛てた手紙を書いてから一週間目、市平は颯然《さつぜん》として帰ってきた。
その日のその時も梅三爺は開墾場で働いていた。飯を炊きに帰った養吉が、
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