ぐでは。お飯《まんま》炊《た》く時分だからは……」
父親の傍で、黙って聞いていたヨーギは、急に起《た》ち上がった。
「ああ。火を気付けでな。」
「俺《おら》も、兄《あん》つあんと行ぐは。」と一人で土を弄《いじく》って遊んでいたよし[#「よし」に傍点]が、土煙の中から飛び出してヨーギの方へ駈けて行った。
「うむ。うむ。」と梅三爺は、それにも返事を与えた。
「よく飯《めし》が炊けますね。」竜雄は心からの驚きの表情を示して。
「なあに、母親《がが》がいねえもんだから……」
「それにしても、よくまあ……。やっぱり[#「やっぱり」は底本では「やっぽり」]百姓の生活はいい。僕なんかも、小さい時から百姓をさせられたら……」――彼は自分の、恵まれ過ぎた幼時の生活を考えて見ずにはいられなかった。「僕なんかの小さい時は、全く泣くこときり知らなかったんだからね。」
「学校さだけは、もう少し、六年生まででも、尋常科だけでも卒業させでえと思ったのでがすが、何しろ私等《わしら》は、帳面一冊買ってやんのだって、なかなか大変なのでがすからは……ほんでも、四年生までやったのでがすげっとも、手紙一本書けねえんでがすから
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