って乗り換えのために戸口へ立って行った。エンジン装置の自働開閉扉が、するするっと開いた。
二
彼女は、すっぽんを洗面器に入れて、自分の室に這入《はい》って行った。
彼女は洗面器の中の、すっぽんを視詰《みつ》めながら、首を出すのを待った。すっぽんの生血《なまち》を取るのには、その首を出すのを待っていて、鋭利な刃物でそれを切るのだと教えられていたからであった。
彼女は電車の中での、自働扉に指を噛まれた男のことを思い出した。あの男の指のように、このすっぽんの首がぐしゃぐしゃに切断されるのだ。彼女はそれを考えると厭《いや》な気がした。
併し彼女は、右手に、鋭利な大型の木鋏を握って、すっぽんが首を出すのを待たなければならなかった。これだけは他人に頼むわけにはいかないような気がしたし、女中達へ命ずるのにも彼女は気がさした。彼女は秘密にこれを処理したかったのだ。
彼女の血液の衷《うち》の若さは、近頃ひどく涸《か》れて来ていた。この血液の衷から渇《かわ》いて行くものを補うために、彼女はいろいろなものを試みた。例えば「精壮」とか「トツカピン」とか。併し、そんなものでは間に合わない
前へ
次へ
全6ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング