いのを、自分が無くしたのを、面白くなく思っているのに相違ねえ。いくらでも、この穴を埋めてやらねばならないと思ったからであった。
 併し、伜の長作は、決して親の意をないがしろにするようなことはなかった。世間への体裁《ていさい》からばかりでなく、実際に、六十の坂を越してから、なお、働き続けねばならない自分の親を、彼は心の底から気の毒に思って、出来るだけの慰撫《いぶ》を心掛けているのであったが、なぜか長作は、それを露骨に現すことは出来なかったし、そういう言葉を口にすることは、なおさら出来ない性分《しょうぶん》だった。ばかりでなく、爺があまり馬鹿馬鹿しい苦労などをする時には、むしろ、罵《ののし》りに近い言葉で制《と》めることがあった。
 平三爺は、他所《よそ》の年寄り達などに比べると、自分が、非常にいたわられているということを知っていながら、伜の心の底に、意地の悪いものがあるように感じた時や、罵りに近い言葉を受けた時には、やはり、非常に寂しい気持ちになった。爺が、山茶花を大切にし、それに自分の慰めを繋《つな》ぐようになったのは、それからのことであった。その山茶花は、まだ相当にやっていた頃に、婆
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