とも答えずに、腰から煙草入れを抜き取って、煙草に火をつけた。
 爺は、ひどく間の悪さを感じた。そこで、足もとへ唾《つば》をして、それから山茶花のまわりを一巡した。
「なんて言ったって、こんだけの山茶花、この界隈《かいわい》に無《ね》えがら……」
「山茶花など、どうだって……それより、早ぐ寝で休んだらいかんべな、爺つあんは。」
 長作は、煙草の煙を吐きながら、また、爺の方へ横目を遣った。そして、そこには重々しい雰囲気《ふんいき》が醸《かも》し出された。
 爺は、伜の気持ちを繕《つくろ》うようなことを、何か言い出そうとして、口を二三度動かしたが、ただ、口を動かし得たに過ぎなかった。さらに爺は、この山茶花を売って、いくらでも生計《くらし》のたしにしたら……こう言おうと思ったが、それも思っただけで、口に出す前に、伜が、どういう返事をするかが気になった。
「この忙しい収穫期《とりいれどき》、休んだりして……」爺は申しわけのように呟《つぶや》きながら家の中へ這入って行った。
「稼いだって、それ以上に損するようなごっちゃ、なんにもなんねえがら…… まあ、ゆっくり休ませえ。」
 長作は、爺の後に跟《つ
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