《と》めるのを肯《き》かずに出て行ったらしい気配なので、世間体《せけんてい》などを考え、どうしても引き止めなければならないと思って庭へ出て来た。
「爺《じん》つあん。そんな無理なごとしねえで、少し休んだらよがあめんがな?」と長作は、やや語調を強めて言った。
「無理ってほどでもねえげっと……拾わねえうぢに、みんな、雀に喰《か》ってしまうべと思ってや。せっかくとったの……」
「落ち穂ぐれえ喰《か》ったって。――そんより、医者さでも掛かるようになったら、なんぼ損だかわかんねえべちゃ、爺《じん》つあんはあ!」
「うむ。それもそうだな、ほんじゃ、おら、今日は、休ませてもらうべかな。」
爺は、眼のあたりを少し赤くするようにして、息苦しい呼吸の間から、申しわけでもするように、吐切《とぎ》れとぎれに言った。そして、また腰をたたいたり、何か言い残したことがあると言うように、口をもぐもぐさせながら、とつおいつ山茶花を眺めていて、容易に家の中に這入《はい》ろうとはしないのであった。
「なあ長作。この山茶花は、ふんとにいい花、咲くちゃなあ!」
「…………」
長作は、爺の方を、白眼で、ちらりと見たきり、なん
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