っと、まだはあ、長びく原因《もと》で、去年のように、拾わねえうぢに、みんな雀に喰《か》ってしまうがら……」
併し平三爺は、そのまますぐに出掛けて行くのでは無かった。――祖先から承《う》け継《つ》いだ財産を、自分の代に、ほとんど無くしてしまったので、爺は、伜《せがれ》への憂慮から、働き続けよう、働き続けようと努力しているのではあるが、しかし、身体《からだ》の方も大分まいっているのだし、気持ちの上では、より以上に休息を需《もと》めているのであった。
殊に今は、疝気《せんき》を起こしているのだから、爺は、仕事への倦怠と、伜への憂慮との、この二つの間にもだもだしているのである。それで爺は先ず、大きなごつごつの手を両方とも、曲がりかけた腰の上に置いて、浅い霜が溶けてぴしゃぴしゃと湿っている庭を、真直ぐに山茶花《さざんか》の木の下へやって行った。
「おもん。一枝《ひとえだ》、婆あの位牌《いはい》さあげて呉《け》ろ。」
爺は、そんなことを言いながら、しばらく山茶花《さざんか》の木の下で、うろうろしていた。
伜の長作は、その時、納屋《なや》で稲を扱《こ》いでいたのであったが、父親が、おもんが制
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