―俺、なあに、手で扱《こ》いだって扱げんのだから。――せっかく、爺つあんが楽しみにしていだ山茶花……」と長作は、吐切れとぎれに言った。
「いいがら、いいがら、俺がこうして病気して、仕事にも追われでんだし、取り換《げ》えでもらえ。――俺、山茶花など、どうでもいいがら。」
 それを聞くと長作は寂《さび》しかった。父親の気持ちを汲《く》むと、彼はむしろ、胸を噛まれる思いがした。
「爺つあんが大切にして育てだ山茶花だもの。今まで、どこから売れって言われでも、売んねえでだ山茶花だもの……」
「いいがら長作、取り換《げ》えでもらえ。俺は、本当になんにもいらねえ。こんなに大切にされで、俺、なんにもいらねえ。俺、金でも溜めでいで、その機械買ってやれんのだらえいげっとも……山茶花など! それより、汝等《にしら》、なんでも楽出来れば。――俺、こんなに大切にされで……」
 涙もろくなった平三爺の眼からは、また涙が流れた。長作は、もう何も言わなかった。が、眼頭《めがしら》が熱く潤《うる》んで来るのを覚えた。
 彼等は、平三爺にしろ長作にしろ、もちろん、この山茶花を手放したくはなかった。併し、だからと言ってこれ
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