ている奴を、薪割《まきわり》のようなやつで、額《ひたい》を一つガンと喰《くら》わせると、ころりっと参ってしまいまさあ、それを骨切り鋸《のこぎり》で、ごそごそっと首を引けば、それであんたの役目は済んだというものですよ。それを一日に五匹もやっつければ、いいやっつけ方でさあね。」
「豚って、そんなにもろいものですか。」
「ええ。全くもろいでさあね。――まあ、やって御覧なさいよ。日に三匹も殺して、日給弐円ももらえば、随分いいやね。先方では、月給に定めてもいいし、一匹殺して幾らと定《き》めてもいいと言っているんですから……。まあ、やって御覧なさいよ。」と、仲田はすすめた。
「随分いい話ですけれど、まあ、明晩まで考えさせて下さい。ちょっと気が引けますから……。」と、言って彼は仲田と別れて、その帰りに、自然美で有名な井之頭の公園に廻って見たのであった。
 彼は池のほとりを静かに歩きながら、屠殺場の場面を種々に頭の中に描いて見た。厭《いや》がってヒンヒンと鳴いては後去《あとずさ》りする豚を無理矢理に枠の中に引っ張り込んで繋ぐ……、尚も悲鳴を上げて泣き続けているのに、大きな薪割様《まきわりよう》の刃物で
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