きながら考えた。
 彼はどんな労働でもやると言った。全くやろうという固い決心を抱いて、どんなことでもやる積もりだから仕事を見つけてくれという手紙を、農夫ではありながら仲々交際の広い仲田に出して置いたのであった。でありながら、いよいよ仲田の処に来て彼の話を聞いて見ると、彼はその返事に躊躇《ちゅうちょ》せずにはいられなかった。それはあまりに仲田の持ち出した話が、彼の想像とかけはなれていたから……。
「さあ! 私に、そんな事が出来るでしょうかね。」と、ただ彼は驚いて見せた。
「そりゃ、やる気にさえなれば、誰にだって出来まさあね。」と、言って仲田は、にやり微笑《ほほえ》んで見せた。「何、訳はねいんですよ。ただ豚を撲《なぐ》り殺せばいいんだからねよ。皮を剥《は》ぐとか、肉をそぐとかいうんなら、慣れねえ素人《しろうと》には出来なかんべが、何、撲り殺すだけなら、全く訳はねえでさあねえ。」
「それがですよ。その撲殺するのが……、果たして私にうまく殺せるかどうか、というのです。少しもその方面に経験の無い私に……。」
「経験もへつまも入《い》ったもんじゃねえですよ。枠《わく》に縛りつけられて、ヒンヒン鳴い
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