首を失った蜻蛉
佐左木俊郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)薊《あざみ》の花や
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)尚|一入《ひとしお》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ころりっ[#「ころりっ」に傍点]と
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薊《あざみ》の花や白い山百合の花の咲いている叢《くさむら》の中の、心持ちくだりになっている細道を、煙草《たばこ》を吸いながら下りて行くと、水面が鏡の面のように静かな古池があって、岸からは雑草が掩《おお》いかかり、中には睡蓮《すいれん》の花が夢の様に咲いている。そして四辺《あたり》の杉木立や、楢《なら》、櫟《くぬぎ》、楓《かえで》、栗等の雑木の杜《もり》が、静かな池の面にその姿を落として、池一杯に緑を溶かしている。
彼は池のほとりに据《す》えられた粗末なベンチに腰を下ろして、暫《しばら》く静かな景色に見とれていたが、雑木林の中を歩きながら考えた。それは一時間程前に、「明晩まで考えさせて下さい。」と仲田に言って来た返事についてであった。彼は溜め息をつくように、ぱっと煙草の煙を吐いては、首を垂れて歩
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