れにもう芸を仕込んで行く奴等は、今ごろは、もうとっくに行っているから、俺等《おれら》、何も芸しなくたって、酒と餅にゃあ大丈夫ありつけるさ。」
万と平六とは、そして雪面の上へ長い影を引きながら、粉雪混《こゆきまじ》りの静かな西風に送られて歩いて行った。
三
吉田家は近郷一の素封家《そほうか》だった。そして、古風な恒例は何事も豪勢にやるのが習慣だった。殊《こと》にも今年は、当主と次女と老母と、三人の厄歳《やくどし》が重なっているので、吉田家では二日も前から歳祝いの用意をしているのであった。
しかし、今夜は、折|悪《あ》しく、西風が少し立ったので、チャセゴ取りは少なかった。昼座敷《ひるざしき》から居残っている親戚の者を入れても、五十人とはなかった。十二畳間三座敷を通して明けひろげ、一間置きくらいに燭台を置き、激しい冷気にもかかわらず障子を取りはずして、真《ま》っ昼《ひる》間のように明るいのだが、飲み飽き食い飽きてしまったように、なんとなく白けていた。
座敷には、祝い主達の姿もなくなって、七福神の仮装《かそう》と二、三人の泥酔者が酷《ひど》く目立っていた。
「アキの方から
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