チャセゴに参った。」
平六は縁先から座敷の中に呼びかけた。
「何方《どっち》から参ったと?」
酔者が怒鳴って、他の人達も一斉に振り向いたが、その中から、誰かが優しく応《こた》えてくれた。
「何を持って参った?」
「銭と金とザクザク持って参った。」
「祝いの芸は?」
平六はそこで、廊下に上がり、手拭《てぬぐ》いを鉢巻きにして、面白可笑《おもしろおか》しく手足を振りながら座敷の中へ這入《はい》って行った。万は縁先に立って座敷の中を見廻していたが、平六の出鱈目《でたらめ》な踊りが手を叩かれている隙《すき》に、七福神の仮装の福禄寿が銀の杯《さかずき》を取って仮装のための夜着の袖《そで》の中へ持ち込んだ。万は(野郎! 先手を打っていやがる……)と思って眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。
平六の出鱈目な踊りは、酷《ひど》く受けてしまった。一同は平六から眼を離さなかった。その中で万だけは、仮装の福禄寿の方を視詰《みつ》め続けていた。すると福禄寿は、またも銀の杯を袖の中に持ち込んだ。その時ちょうど誰かが、万の方に声をかけた。
「次に続く太夫《たゆう》の芸は?」
「はっ
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