ながら、土間に突っ立っていた。
「阿呆め! 余計な者連れて来やがって、一升餅損したぞ。そら汝等《にしら》にもやるから、くれてやった餅ばあ、早く行ってもらい返して来い。」
 おきんはそう言って、自分の子供達の手にも、二切れずつの餅をのせてやった。しかし、子供達は餅をもらってしまうと、そんな愚痴《ぐち》など聞いてはいなかった。頓狂《とんきょう》な声を上げながら戸外に待っている悪垂《あくたれ》仲間の方へ飛んで行った。
「これじゃあ、俺も、順《おとな》しくしちゃいられねえ。吉田様の歳祝いにでも行ってくるべ。」
 万は軽い興奮で言った。
「歳祝に行ったって一升餅持って帰れめえし、それより後のチャセゴの来ねえうちに早く寝た方がいい。」
「馬鹿! 一升餅くらいで、一里からの雪路《ゆきみち》、吉田様まで、誰が行くものか。俺《おれ》の欲しいの、餅なんかじゃねえ。銀の杯《さかずき》を欲しいのだ。」
「欲しくたって……」
「吉田様じゃあ、歳祝いというと、二千だか三千だか、自慢たらしく銀の杯出しゃがるから、餅の代わりにもらって来てやるべ。」
 万は炉端《ろばた》へ行って出掛ける前の煙草《たばこ》を、忙《せわ》
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