ながら、潮《うしお》のように雪崩《なだれ》込んで来た。しかし、その一団の先に立っているのは、万の長男だった。次男も三男も混じっていた。
「なあんだ兵吉じゃねえか。仁助《にすけ》も三吉もか。馬鹿野郎ども。我家さチャセゴに来る奴、あっか。馬鹿|奴《め》。」
 万は呆《あき》れて、炉縁《ろぶち》へまたも煙管《きせる》を叩き付けながらいった。
「本当に馬鹿な孩子《わらし》どもだよ。」
 妻のおきんもそう言ったが、しかし、部屋の片隅へ餅桶《もちおけ》を取りに立って行った。
「さあさ、ここに並べ。そうでねえと、貴様達は一人で二度も三度ももらおうからな。」
 万はそう言いながら上《あが》り框《がまち》へ立って行った。
「俺そんなことしねえ。俺そんなことしねえ。」
 子供達は、口々に言いながら上り框へ一列に並んだ。
「駄目だ駄目だ。そんなこと言っても、真《ま》に取れねえ。もらった奴は先に外へ出ろ。」
 万はそう言って、妻のおきんが運んで来た餅桶の中から二切れずつの餅を取っては、子供達の手に配《くば》って行った。そして子供達は全部外へ飛び出したが、兵吉と仁吉と三吉とは、父親と母親との顔を見比べるようにし
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