じゃねえか。」
 万《まん》は口を尖《と》げるようにして焼《や》け焦《こ》げだらけの炉縁《ろぶち》へ、煙管《きせる》を叩《たた》きつけるようにしていった。
 瞬間、急に戸外が騒々しくなってきて、無数の小さな地響きが戸口を目掛けて雑踏《ざっとう》して来た。万夫婦は、思わず戸口の方へ眼をやった。戸口では急に縺《もつ》れ合《あ》いが始まり、板戸がコトリと鳴って月の出前の薄暗《うすやみ》を五、六寸ばかり展《ひろ》げられた。
「アキの方からチャセゴに参った。」
 引き明けた戸口から、石でも投げ付けるように、小さな声が一斉《いっせい》に叫び立てた。万夫婦は吃驚《びっくり》して声も出なかった。子供達の叫び声は続いた。
「アキの方からチャセゴに参った。」
「何を持って参った?」
「銭と金とザクザク持って参った。」
 子供達はまたも声を揃《そろ》えて叫び返した。
「そうかそうか。銭と金とザクザクと持って参ったか。そりゃあ目出たいことだ。這入《はい》れ這入れ。お祝いするから、こっちさ這入れ。」
 万は夢からでも醒《さ》めたようにして、幾分|周章《あわて》気味に言った。子供達は我先《われさき》と、小突き合い
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