死ぬようなごとはがすめえがね。併し、皆んながああして、田圃ばかりじゃ足りなくて、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]を飼ったり養蚕をしたりして、一生懸命になって稼いでいでそんでも困ってのでがすからね。」
 森山は心の中で固く拳を握っていた。
         *
 路の両側から蛙の声が地を揺がしていた。煉瓦を焼く煙は、仄赤く、夜の空を焦していた。
 権四郎爺は、二間道路の路幅一っぱいに、右斜めに歩いては左斜めに歩き、左斜めに歩いては右斜めに歩き、蹌踉《よろめ》きながら蛇行した。河北煉瓦製造会社の社長の家で、酒を呑まされて来てはいたが、別段酔っているのでは無かった。近頃彼が夜歩きをすると、部落の青年達がよく彼に突当って来るので、それを防ぐためだった。蛇行していれば、何方《どっち》から出て来て突当ろうとしても、何等自分の威厳を傷つけられた風に見せずに、身をかわして了えるからだっだ。
「ふむ! おかしくてさ。馬鹿野郎共め!」
 吐き出すようにして、権四郎爺は、何度も何度も言った。それで権四郎爺は幾分か自分の不安な気持を慰められたのであった。
「馬鹿野郎共め! おかしくて仕様ねえ。栗原権
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