黒い地帯
佐左木俊郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)掩《おおい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)急性|霍乱《かくらん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《にわとり》の
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       一

 煉瓦工場からは再び黒煙が流れ出した。煤煙は昼も夜も絶え間なく部落の空を掩《おおい》包んだ。そして部落中は松埃《まつぼこり》で真黒に塗潰された。わけても柳、鼠梨、欅などの樹膚は、何れとも見分けがたくなって行った。桐、南瓜、桑などの葉は、黒い天鵞絨《びろうど》のように、粒々のものを一面に畳んだ。
 雨が降ると黒い水が流れた。何処の樹木にも黒い雀ばかりだった。太陽は毎日毎日熱っぽく煤ばんで唐辛子のような色を見せた。作物は何れもひどく威勢を殺《そ》がれた。殊にも夥しいのは桑の葉の被害だった。毎朝、黝《くす》んだ水の上を、蚕がぎくぎく蠢《うご》めきながら流れて行った。
         *
「――俺
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