《おら》家の鶏ども、白色レグホンだって、ミノルカだって、アンダラシャだって、どいつもこいつも、みんなはあ、黒鶏《からすとり》みてえになってるから。」
「何処の家のだって同じごった。俺家の鵞鳥《がちょう》を見てけれったら。何処の世界に黒い鵞鳥なんて……。俺は、見る度に、可笑《おか》しくてさ。」
「雪のように白かったけがなあ!」
「俺はな、ほんでさ、西洋鵞鳥! 西洋鵞鳥! って徇《ふ》れて、一つ、売りに行って見べえかと思ってるのだけっとも。」
「儲かっかも知れねえで。黒い鵞鳥! って言ったら、町場の奴等は珍しがんべから。」
「何んて言っても、腹の立つのあ、権四郎爺さ。」
「うむ。部落《むら》のためにゃあ、あの爺なんか、打殺《ぶちころ》して了めえばいいんだ。」
路傍の堤草《どてくさ》に腰をおろして、新平と平吾とは、斯んな話をしていた。其処へ、同じ部落の松代が通りかかった。松代は、ひどく色の黒い娘だった。
「やあい! 松代さん。シャボン買いか? シャボンよりもいいもの教えっから、少し休んで行げったら。あ、松代さん。」
「余計なお世話だよ! 平吾さん。他人のごと心配するより、自分のどこの鵞鳥で
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