も洗ってやったらよかんべね。」
松代は応酬しながら寄って行った。
「俺家の鵞鳥、西洋鵞鳥だもの、烏と同じごって、幾ら洗ったって、白くなんかなんねえのだ。松代さんのように、地膚が白くて、洗って白くなんのなら、朝晩欠かさず洗ってやんのだげっとも。」
「知らねえど思って、何んぼでも虚仮《こけ》ばいいさ。何処の世界に、黒い鵞鳥だなんて……」
「嘘だってか? 西洋鵞鳥って、おめえ、随分と高値のするもんだぞ。」
寝転んでいた新平が起上りながら言った。
「幾ら高値でも、松代さんが嫁に行げねえと同じごって、煉瓦場のために、売口が無くて困ってのさ。世間の奴等、俺家の西洋鵞鳥、煉瓦場の松埃で黒くなったのだと思っていやがるからな。松埃で黒くなった松代さんば、地膚がら黒いのだと思ってやがるし……」
「頭が禿げだって知らねえから。」
松代はそう言って平吾の手を撲った。
併し、松代は調戯《からかわ》れながらも彼等の傍を立たなかった。
「本当に、何時まで続くもんだかな? 煉瓦場。――早く止めてくれねえど、本当に困って了うな。桑畠は勿論だども、俺は何時までも鵞鳥が売れねえしさ。松代さんは嫁に行げねえしさ。」
前へ
次へ
全29ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング