業と云うことに就いて考えた。彼の家の小作人達が、小作米を自分の処へ持って来ると、後に残る米は一箇年間の飯米にも足りないほどで、買う物のために売る物の無いのに、ひどく困って居るのを気の毒に思ったからである。彼は養蚕を奨《すす》めて桑を植えさせた。それから養鶏を奨励した。そして彼は、彼の家の所有地を小作している小作人達のためにと、最早七八年もその実地研究を続けているのだ。――其処へ持って来て、権四郎爺の相談は、彼の明日を暗《やみ》にしようとするようなもので、成立する筈は無いのだった。
「旦那は、やっぱり、煉瓦場近くの土地ば売って了った方が、徳だと思ってんでごあすベ?」
 権四郎爺は、今日も亦、話を斯んな風に何時ものところへ持って行った。
「徳にも損にも、あそこだけは、どんなことがあっても売るわけに行かねえのでがす。あそこを売るど、差当り、四軒の家の人達が食うに困んのでがすからね。」
「旦那は直ぐそう云うげっとも、売って了めえば、野郎共は又その時ゃその時でなんとかしますべで。今までだって、うんと例があんのでごおすし、心配することはごおせん。」
「それゃあ、私があそこを売ったからって、食わずに
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