まるで骨折損でごわした。」
「旦那等ほだからって、鶏を飼ったのが、儲けになんねえでも、暇潰しになって運動になればいいんでごあすべから。」
 斯う言って権四郎爺は、面白くもおかしくもないのに、顔中を皺だらけにして追従笑いをした。
「いや、そんな馬鹿なこと、絶対にござりせん。やっぱし成績のいい※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]をとりたいと思って努力してんのでがすから。」
 森山は馬が驚いたときのように鼻穴を大きくして反駁した。併し権四郎は追従笑いを続けた。
「ほだって、且那等は、遊んでても食べて行かれんのでごおすもの。」
「併し、遊んでても食べられる者は、骨折損なことをしてた方がいいて理窟はがすめえ?」
 森山は、世間の人達から、自分が素封家の道楽息子として育ち、その延長に過ぎない生活をしているように思われるのをひどく嫌がっていた。彼は積極的だった。それが何時も、真摯な考慮を基礎として出発し、積上げられているのだった。彼はそして非生産的なことを嫌った。主張としては、幾分消極的ではあるが、温情主義と見るべきだった。――だから彼は、父親の死と同時に地主の席を譲られると、真面目に農家の副
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