完成と同時に竈は閉された。併し第三期の今度は、投資の目的で始めたのだった。同じような煉瓦造りの大煙突が三本になった。第一期第二期当時に完成された鉄道が、容易に運び去ってくれると云う点から、最早その土地の鉄道工事と云うような供給の対照を考慮に入れる必要は無かった。全国が供給の対照であった。粘土質の土地を手放す者さえあれば、何時まで続くかわからない事業だった。

       二

 地主の森山は鶏小屋から戻って来たところだった。そこへ権四郎爺が這入って来た。森山は縁側に座蒲団を出さして其処へ掛けさせた。今までに何度も持って来た権四郎爺の用件には、彼はどうしても応ずる気が無かったし、鶏小屋の方に残してある仕事が気になるので、早く帰って貰おうと思ったから。
「どうでがすね? 今年の雛鶏《ひよっこ》の成績《しいしき》は?……」
 権四郎爺は※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《にわとり》の話を持出した。先ず森山の機嫌を取って置く必要があったからだ。
「鶏《とり》にかけちゃ、この界隈にゃ、且那に及ぶ者はねえってごったから……」
「雛鶏だってなんだって、斯う松埃をぶっかけられちゃね。今年は、
前へ 次へ
全29ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング