。鉄板製の煙突の代りに、赤い煉瓦造りの大煙突が、遠くの遠くから敵視の目標となった。黒煙は煙突から直かに雲に続いた。そして煤煙の被害は遠方の部落にまで及んで行った。煉瓦を積んだ荷馬車が、何台も何台も、工事中の仮駅へ向けて行列をつくった。道路には幾本もの深い轍《わだち》が立って、九年の間、苗代のような泥濘が続いた。最良質の田圃は片端から掘荒されて行った。質のいい米を結ぶ田圃の底からでなければ最上質の煉瓦は出来ないからだった。併し、耕地が減って行くのに、其処から投げ出された小作人達は、代りの職業が容易に見つからなかった。むしろ、絶対に! だった。第一期当時にあった煉瓦場の方の仕事「ぺたぺた敲き」や煉瓦運搬の駄賃や縄綯いなどは以前からの熟練した人々の手で沢山だったからである。そのために北海道の開墾地へ移住した者があった。部落の東北部を起伏しながら走っている丘の中腹に歯噛みつき、其処に桑園を拓いて、これまで副業にしていた養蚕を純然たる生業にした数家族があった。
第三期は、第二期九箇年の後に、一箇年を置いて始められた。
第一期第二期は何れも鉄道敷設の工事材料を目的に焼いたのだった。だから工事の
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