な。一つ、水揚水車を拵えちゃどうでごわす? 窪地に、一っぺい水があんのでごわすから。」
「どうしても出ねえかね? どんなことをしても? 出ねえければ、それゃ、水揚げ水車でもなんでも拵えるより仕方がねえがね。娘を売ってまで小作料を持って来られちゃ、どんなことをしてだって水をあげてやらねえと……」
森山はそう言って、全く力を落として了ったように、其処へべったりと腰を据えた。
*
粘質壌土の田圃の一部が掘崩されて、其処に小さな水揚げ水車が拵えられた。それは人間の足で踏んで水を揚げるように出来ていた。
森山はその水揚げ水車に上って、雨の日でないかぎり、毎日毎日がちゃがちゃとそれを踏んだ。濁りを帯びた溜水は、鬱屈していた動物のように、どくどくと溝の中へ流れ込んで行った。それを見て、森山は、にやにやと、顔中に嬉しそうな笑いの皺を刻むのだった。
「旦那! 少し俺等もやんべかね?」
新平等が斯う言っても、森山は肯《き》かなかった。
「なあに、運動のつもりでやってんのだから。」
併し森山は、炎天が続くと、夜も寝ずにその水車を踏み続けなければならなかった。そして、焼付けるような
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