炎天の下で居眠りをしながら水車を踏んでいることがあった。煉瓦工場からの煤煙が、その上から、ひっきりなしに降った。白い肌襦袢へ、黒い羽虫のように一つとまり二つとまり、夕方までには灰色になるのだった。
「おっ! 森山の且那はどうしたべ?」
或る激しい炎天の日の午後、田の草を取っていた平吾が、そう言って立った。
「今の先っきまで踏んでだっけがな。ほんとに?」
「居眠《ねぶかき》して、水さ落ちたんであんめえかな?」
平吾等は、田圃から上って、水揚げ水車のところへ駈けて行った。
*
森山が、疲労と睡眠不足との身体を炎暑に煎りつけられて、日射病系の急性|霍乱《かくらん》で死んでから、そこの小作人達は、代る代るに水揚げ水車を踏んだ。
併し、その翌年からは、誰もそれを踏むものが無かった。例え小作料を計算に入れないにしても、そんなことをして収穫したのでは、とても合わないからだった。都会の大工場が機械の力で拵えた沢山の物を生活に必要としている彼等が、それを買うために、そんな手数のかかる耕作をしてはいられないのだった。だから、そこは畠にするより仕方が無かった。
黒い地帯は、併し、
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