だね? まだ水脈さ掘付けねえがね?」
森山は斯う言って、毎日幾度も訊きに来るのだった。一日中其処から離れないことが度度だった。自分で櫓へ上って、がちゃがちゃと、居ても立ってもいられないと云うようにして鑿竿《せんかん》を動かしたりした。
「なんだって此処は水が出ねえんだかな?」
森山は最早常軌を逸していた。水! 水! 水! 彼の全身は渇き切っていた。彼の将来にかけた明るい希望は、黒い乾燥地帯に圧付けられていた。そしてその黒くからからに乾燥した地帯が、彼の意識の全部を埋め尽そうとしているのだ。彼の心臓までも侵そうとしているのだった。
「そろそろ、今に出ますべで。出ねえわけねえんですから。」
井戸掘の人夫達も、それより、もう慰める言葉が無かった。
「あんなに一生懸命なのに、それで水が出ねえなんて、一体、法律が許して置くか置かねえが、権四郎爺に訊いて見べえかな?」
斯んなことを言って、森山が帰って行くと、井戸掘人夫達は笑った。森山に対する気の毒な気持を掻消すためだった。
併しその掘抜井戸からは、田圃の耕作が始まっても、水はとうとう出なかった。
「旦那! どうもこれじゃ出そうもごわせん
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