頬の上へ転がり出した。
         *
 膳が並べられ出すと、息詰るような涙ぐましい気持で、捨吉爺はもう堪らなくなって来た。同時に、お房に対して、父親としての申訳を言わずには居られなかった。
「お房! 汝《にし》あ、恨むんなら、煉瓦場を恨めよ。なあ。森山の且那が悪いのでも、俺等が悪いのでもねえ、煉瓦場が悪いのだから。」
「俺は、誰のどこも恨まねえもの。」
 お房は膳の前に坐りながら言った。
「煉瓦場は、冬休みがとっても長くて、いいもんだな。」
「この野郎は、そんなごとばかり。」
 鶴治は小学校の尋常一年生で、二週間の冬休みがあった。それに較べると煉瓦場の仕事の出来ない期間は全く長かった。
「冬休みなんか、なんぼ長くたって、糞の役にもなんねえ。夏休みが長げえのならだげっとも……」
 捨吉爺は、笑いながら、併し怒ったようにして言った。
「森山の且那等、何もかも判っているようだげっとも、物事を考えるのに、深く突詰めるってごとねえんだもの。ほだからのことさ。」
「お房や。小豆餅ばかりでなんなら、納豆餅でなりなんなり、どっさり食って行くんだ。東京さなど行ったら、餅などはあ、たんと銭でも出さ
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