か?」
 兄の鶴治が拳固を突出した。
「兄《あん》つぁんの銭は、酒呑んだ銭だから嫌《や》んだ。」
「ううんだ。そら、見ろ! 銀貨だから。」
 鶴治は狡るそうに眼を丸くして、拳を開いて見せた。亀吉は手早く、鶴治の掌の中に光っているものを引浚った。
「嫌んだ! この銭は、皮が剥げるもの。」
「ほだべさ。その銭は、※[#「くさかんむり/嘛のつくり」、第4水準2−86−74]疹《はしか》になってんのだもの。亀だって、※[#「くさかんむり/嘛のつくり」、第4水準2−86−74]疹になったどき、身体中の皮が剥げだべ? ほして癒ったベ? この銭も、蟇口《がまぐち》さ入れて置けば、遣うどきまでに、ちゃんと癒ってんのだ。」
「嘘だから嫌んだあ! お母あ、銭けろ。」
 亀吉は強請りながら、銅貨の上に被せてあるバットの銀紙を、少しずつ剥取った。
「汝等《にしら》が、姉さ餞別出来るようなら、姉は何も親の側から離れねえでもいいのだ。」
 母親は小豆鍋を掻廻しながら言っていた。
 竈の下を焚きながら、黙り続けて焔先《ひさき》を視つめていた父親の捨吉は、だんだん瞼が熱くなって来た。そして大粒の涙が一つ、するするっと
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