あんたがたは、やって行げるかね?」
「併し、無理して堰を拵えで見ても……」
「今になって畠にする位なら、あそこを売って、何処かいいどこの畠を買いばよかったのだども。」
森山はそう言ったきり黙って了った。森山は泣いているのだった。
四
雪はまだ降り続いていた。最早五六寸も積っているのだった。戸を開けると、粉雪は唐箕《とうみ》の口から吹飛ばされる稲埃のように、併しゆるやかに、灯縞《ひじま》の中を斜めに土間へ降り込んだ。
「何時まで降る気なんだかな? この雪は!」
捨吉はそう言って雪の中へ飛出して行った。そして水を汲んで来て、直ぐに竈の下を焚付けた。娘のお房が立って行くので餅を搗こうと云うのだった。誰もその晩は碌に眠れなかった。皆んな一番鶏で起きた。子供達もそれを嗅ぎつけて、どんなに起すまいとしても、寝ては居なかった。
「お母《が》あ! 銭《ぜんこ》けろ。銭けろってばな。姉さ餞別しんのだからや。お母あ!」
六つになる弟の亀吉が、何処からか餞別と言う言葉を覚えて来て、斯う強請《ねだ》り出した。
「おっ! 亀は、姉さ餞別やって、お土産を貰うべと思って。亀! 俺の銭けんべ
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