ねえと、喰《か》れめえから……」
「俺は、何んにも食いたくねえも。」
「何も、先が暗いからって、おっかねえごとなんかねえだ。渡る世間に鬼は居ねってがら。」
「併し考えで見ると、森山の旦那が、あそこの土地を売らながったのだって、ああして困ってのだって、俺等を乾干《ひぼし》にしめえど思ってのごとなんだがらな。それを考えると、此方でだって、ああして困ってんのを見れば、全然小作米をやらねえじゃ置げねえがらな。お房には気の毒だげっども。」
「斯んなごとになんのなら、あそこを売ればよがったんだね。自分だけでも助かったのにさ。」
「売って、その金を此方さ廻してくれれば、問題は無かったのさ。それを森山の旦那は、他の地主等、土地を売払って小作人を困らせでるがら、自分だけは、意地でも売らねえって気になったのさ。ふんでも、皆んながああして売った処さ、自分だけ頑張って、島のように残して置いたって、何になんべさ。頑張るのなら、皆んなで頑張らなくちゃ。」
「ほだからって、恨みってえことは言われしめえ。殺すようなごとしてまで取立てる世の中なんだもの。」
「誰も、恨みごとなんか言わねえ。ふむ。旦那が気の毒だと思っての
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