! 年寄は悪いごと言わねえがら。」
「若し、そんなごとしたら、法律が許して置きしめえから、大丈夫でがすべで。」
 森山はそう言って微笑んだ。
「法律は、それゃ、勿論許して置かねえにしても、そんなごとさかかわるより、土地ば売って了って、それを資本《もとで》にして、何か店を開いたら、なんぼよかんべ。――第一、土地持ってっと、税金ばかりかかって来て……」
 併しそれは、どうしても、森山には頷けない気持だった。
 損徳の問題からすれば、土地を売って了って、市街地へ出て商業に投資すべきであることは彼も無論知っていた。遥か以前に、あの煉瓦場附近の土地を売って、それを資本にして市街地に出た人達が、新しく始めた製造業なり醸造業なりで、相当の資財を積んだ実例から見てもそれは明らかなことだった。
 同時に彼は、小作人と同じところに盛衰を置いている小地主の自分を判然と知っていた。けれども、労力さえ加えれば永久に米が湧いて来る田圃の底を煉瓦に変えて了うと云うことは、森山には全く堪らない気持であった。
「何んと思っても、売れせんでがすね。」
「じゃ、もう一度ようぐ考えて。――何時かな?」
 権四郎爺は、帯の間か
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