交通妨害をしやがって……兎に角、ほんじゃ間違えだで、俺が一升買うがら、一緒に茶屋さ行くべ。あっ? なっ!」
「その手に乗っかい! 法律が言論の自由を許している。糞爺! 犬爺! 猿爺!」
 平吾は斯う呶鳴《どな》って置いて、権四郎爺の胸をぐっと突飛ばした。権四郎爺は泥田の中へ蹌踉き落ちた。闇の中から鵞鳥が一斉に鳴き出した。
「西洋鵞鳥でも見物したらよがんべ。」
 平吾は、ふふっと笑って、何処へと云うあてもなく駈け出して了った。
「野郎! 人殺し野郎! 法律が許すと思うのが? 平吾の人殺し野郎め! 栗原権四郎に指を触れて、法律が許して置ぐと思うのが? 馬鹿野郎! 犬野郎! 人殺し野郎め!」
 権四郎爺は苗代の中の泥から足を抜き抜き、何時までも呶鳴り続けていた。
         *
「だがね、旦那! 旦那はそうして眼をかけてるげっとも、宮前屋敷の野郎共ったら、平吾にしろ新平にしろ、乱暴な野郎共ばかりで、今に屹度《きっと》、松埃がかかって収穫《みのり》が悪いがら、小作米を負けてくれとか、納められねえどか、屹度はあ小作争議のようごとを出かすに相違ねえ野郎共だから。そこを、ようぐ考えで。ね、旦那
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