その土地を自分の所有に戻すことは出来なかった。借りた金は、利息に利息を生み、土地は小作料を持って行った。俄然として疲弊は農村を襲って来た。
 そこへ岡本吾亮が素晴らしい話を持って帰って来たのだった。――彼の知人が北海道に無代で提供してもいい百五十万坪という莫大な土地を持っているという話だった。併しそれは道庁から十年間のうちに開拓するという条件でもらったもので、既に二十家族からの人々が開墾しているが、なかなか開墾しきれないので、残りの三年の間に開墾してしまわなければ道庁から取り上げられてしまうのだ。がそれは惜しい。誰か開墾する者は無いだろうか? 自分は道庁から取り上げられたものとして提供するし、開墾中の食糧ぐらいは貸してもいい。それは開墾場から利益があがるようになってから年々少しずつ返してくれればいいと、そこの藤沢という地主が言っているとのことだった。そして吾亮は、食うものを作る人間が食えなくなったからとて、他の職業に就いたのでは、かえって食うものが少なくなるばかりだ。だから農村の失業者は、なるべく開墾地へ行って、自分で自分の食うものを作るべきだ。そういう意味で、自分は一人でも行くつもり
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