佐平爺の顔を視詰《みつ》めていた眼を、静かに伏せた。同時に顔色が真っ蒼になった。
「何も心配するごとねえ。それだけの度胸と覚悟があるのなら、もっと考えてやるのさ。――貴様は、自分の親父が殺された時の、本当のことを知らねえで、村の作り事ばかり信じてるから、自分の恨みせえ晴らせばいいと思っていんだべが……」
「作り事って、何が裏にあったんだろうか?」
雄吾は再び佐平爺の顔を視詰めた。――嘘つき佐平、で有名な佐平爺は、嘘をつくときには、いつも口尻を曲《ま》げるのが癖だった。併し、その口尻の曲がりは、より話に真実性を持たせるのだった。だが、今日は、口尻を曲げずに佐平爺は言うのだった。
「併し、それにあ、開墾場の最初から話さねば判らねえから……まあ、火でも焚いてあたりながら……馬鹿に寒くなって来たから……」
雄吾は倒れている大木に猟銃を立て掛けて、時雨《しぐれ》に濡れた落ち葉の間に、枯れ枝を探し歩いた。
*
雄吾の父親、岡本|吾亮《ごすけ》がしばらくぶりで自分の郷里に帰って来た。東京で一緒になったという若い綺麗な細君と幼い伜《せがれ》の雄吾を伴《つ》れて。――東京から札幌へ行
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