辺《あたり》に驚きの眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。
「どこへ行って来た? 顔色をかえて、鉄砲など持って……」
同じ開墾場の佐平爺が、向こう岸に微笑んでいた。
「熊が出てね。俺《おら》、皮がほしかったもんだから、追っかけて見たのだげっとも……」
「熊だと? 牝兎じゃねえのか?」
佐平爺は微笑みながらそう言って、魚籃《びく》を提げて川を漕いで来た。
「まあ、なんにしろ、あまり無鉄砲なごとをして、自分の身を亡《ほろ》ぼすようなことをするなよ。貴様の気持ちも判るが……」
「本当に、熊だってばな!」
雄吾は佐平爺の慰めるような言葉で、涙含《なみだぐ》ましい気持ちに支配されながら、それに反抗するように言った。
「俺に嘘《うそ》を言わなくてもいい。――嘘をついたって、決して悪いとは限らねえさ。併し、将来《さき》の見透せねえ嘘じゃいけねえんだよ。俺は、村中きっての嘘つきだって言われるが、将来の見透せねえ嘘をついたことはねえだ。将来の見透せねえ人間がまた碌《ろく》な嘘をつけるもんでもねえし。――だがさ、熊にしろ牝兎にしろ、馬車に乗って行くわけねえがらな。」
雄吾は、
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