と、重心をさえ失いかけた。そして、ひどく咽喉《のど》が渇いていた。雄吾は無意識のうちに、開墾地帯に近い原始林の中を流れている谷川の方へ歩みをむけていた。彼は、きょときょとと四辺《あたり》を見廻しながら、緩《ゆっく》り歩いたり、急に駈け出したり、滅茶苦茶だった。
機会を取り遁《に》がしてしまったことは、極度の嫉妬《しっと》に燃え、復讐心に駆られていた雄吾にとって、前歯で噛み潰《つぶ》したいような経験だった。残念で、口惜しくて堪《たま》らなかった。がしかし、あのアイヌが、自分の将来を、自分の無謀な計画の中から救い出してくれたようにも思われた。けれども、雄吾の復讐心の火は消されはしなかった。彼はさらに、最も賢いところの悪辣《あくらつ》な手段を考え出そうと努めるのだった。
浦幌《うらほろ》川に流れ込むその清水の谷川の畔《ほとり》には、半分腐れかけた幾本もの大木が倒れていた。雄吾はそれらの大木を跨《また》ぐのが面倒なので、猟銃を杖にして木から木へと伝い歩いた。そして、河原へ飛びおり、がぶがぶと水を呑んだ。
「雄吾!」
彼はびっくりして顔を上げた。彼は濡れた唇を掌《てのひら》で拭いながら、四
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