げ》が判然《はっきり》と浮かんで来た。
岡本吾亮だ! 藤沢はガンと眩暈《めまい》を感じた。彼は立ち上がりながらテーブルの横に手を伸ばした。臆病な胸が急に騒ぎ出した。彼奴《きゃつ》のために、また滅茶苦茶にされてしまう! 藤沢はテーブルの横から取り上げた猟銃をすぐ動悸の激しい胸に構えた。そして銃口を窓から突き出した。
「おい!馬鹿なことを止《よ》せ!」
吾亮は右腕を顔に当てながら叫んだ。同時に鉄砲の音が響いた。吾亮は蹌踉《よろ》めいてばたりと倒れた。
藤沢は部屋の隅から毛皮の外套を取って出て行った。彼は震える手で、微かに動いている吾亮に毛皮の外套を着せた。そして彼は溜め息を吐《つ》いた。併し彼の全身の戦《おのの》きは止《や》まなかった。彼は部屋の中に戻って火箸を持って出て行った。胸の傷口のところへ、外套にも穴を拵《こしら》えるためだった。彼が火箸を叢《くさむら》の中に抛《ほお》ったとき、銃砲の音で一人の作男がそこへ寄って来た。
「おい! 駐在所へ行って来てくれ。早くだ。駐在所へ行って巡査を呼んで来てくれ。大急ぎだぞ!」
藤沢は無我夢中で叫んだ。若者は声に追い立てられてすぐに駈け出し
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