は早く私等の方へ移してほしいですね。当然のことなんだから。」
「いいですとも。いいですとも。そんなこと明日にでも。」
言いながら、藤沢は、岡本吾亮のために、長い間の計画が崩されて行くのを感じた。
*
開墾場の小屋を一通り廻り終わると、藤沢は落ち葉を踏み付けて事務所へ戻った。彼は窓際のテーブルに対《むか》った。そして彼はすぐに算盤《そろばん》を弾《はじ》くのだった。――いよいよ取り立てることになると、段当たり七十銭の小作料としても、七百五十町歩だから [#ここから横組み]750×7[#ここで横組み終わり] が五千二百五十円。それから農具の貸し付けが十九軒だから [#ここから横組み]19×5[#ここで横組み終わり] が九十五円。そのほかに、食糧として貸し付けた方から……。
突然、硝子窓の彼方《むこう》に固い兵隊靴の足音がした。藤沢は算盤に手を置いたまま足音の方へ視線をむけた。半分ほど開いている硝子窓の彼方《むこう》を、誰かが此方《こちら》へむけて活溌に歩いて来た。右上がりの広い肩。眼深に冠《かぶ》った羅紗《らしゃ》の頭巾《ずきん》。宵闇《よいやみ》の中に黒い口髯《くちひ
前へ
次へ
全34ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング