た。そこへ佐平が来た。
「あ、困ったことをしてしまった。大変なことをしてしまったよ。あ、あ……」
 藤沢はこう言いながら溜め息を吐《つ》いていた。
「どうしたのかね? 鉄砲の音がしたっけ。」
 佐平はそう言って屈《かが》み込んだ。
「あっ! 吾亮さんじゃねえか?」
 叫んで佐平は跳《と》び退《の》いた。そして藤沢の顔を、穴のあくほど視詰めた。
「なあにね、岡本さんは、私の居ねえところから、私のこの毛皮の外套を着て出たらしいんですよ。私はまたそれに気がつかなかったもんでね。ちょうど、私はまたその時、今年もそろそろ熊の出る時分だなあ、なんて考えていたんですよ。そこへ岡本さんがこの毛皮を着て来たもんで……とにかく、大変なことをしてしまった。あ、あ……」
 藤沢は溜め息を続けた。佐平は、藤沢のその話の中から、将来に向けた秘密な計画を読み取ることが出来た。佐平は、だが、巡査の来るまでは、何も言うべきではないと、黙り続けていた。
 巡査の来るまでには大分時間があった。そのうちに、四辺《あたり》の小屋から、一人寄り二人集まり、がやがやと吾亮の屍《しかばね》を取り巻いた。やがて焚き火が始められた。そこ
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