達は、今やっと息がつけるようになったばかりじゃないですか……最初の約束だって、開墾場から穀類があがるようになったらという話だったし……それは幾らかの収穫はあるがね、自分達が食うのにも足りないぐらいなのだから……」
「いや、それはね、何も今すぐ無理にいただくという話じゃねえですがね。」
藤沢は、岡本吾亮の不機嫌な顔に媚《こび》笑いをむけながらこう言って、その場を逃げたのだった。
併し、地主の藤沢は、なかなかそれだけでは諦《あきら》めきれなかった。その翌年、彼は吾亮に隠れるようにして移住開墾者の間を廻った。彼等は苦しい中から、幾分かずつを返済することにしたのだった。吾亮はそのことを後で聞いて、ひどく憤慨した。
「藤沢さん。そりゃあんまりじゃないかね? もう一二年の間、あなた、待てないこと無かったでしょう。一体、最初私になんと約束したんだ?」
吾亮は事務所へ出掛けて行って地主に詰め寄った。
「まあ岡本さん、穏やかに……私は決して無理にと言うのじやなくて、出来るならと、まあ話の序《ついで》に話したのが、うまく成功したようなわけで……ですから、今度のところは、どうぞまあ、穏やかに見|逃《の
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