》がしておいて下さいな。」
こう言って地主は、吾亮の、鋭い詰問と憤激に燃える眼とから遁《のが》れてしまうのだった。
併し藤沢は、抑えている間は縮んでいる発条《ばね》のように、手を放すとすぐに原状《もと》に戻って、まもなくその時の恐怖感を忘れてしまうのだった。彼は貸した食糧が順調に戻って来るようになると、また別の話を岡本吾亮にまで持って来た。
「ね、岡本さん。この土地にも、そろそろ税金がかかるようになったんですがね。一つその、幾らでも一つその小作料を……」
話の途中で藤沢は吾亮の顔を見た。吾亮は何も言わずに、光る眼で藤沢の顔を視つめ続けた。そして吾亮は下唇を噛んだ。
「いや岡本さん、決して無理というのじゃないんですがね。なにしろその……」
「あなたは最初に、私へなんて約束したです?」
吾亮は太い錆《さび》のある声で叫ぶように言った。併し慾《よく》の深い人間にとって、新しい慾気を満たすためには、古い約束など全然問題ではないのだ。自尊心も道徳も愛情も、場合によっては自分の生命だって投げ出しかねないような人間なのだから。
「前の話は、前の話ですがね。併しその……」
「あなたは、道庁から
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