は容易でなかった。若い荒々しい土は、すぐにも以前に還ろうとするのだった。ただただ土地を、完全に自分達の所有《もの》にしてしまえばいいとの考えから、荒皮を引ん剥《む》いたばかりの畑は、他の方を耕しているうちに他の一方が熊笹や野茨や茅に埋められるという有様だった。彼等が、その草の中から刈り取る秋の収穫は、最初の一二年間というもの、彼等の食糧にかつかつだった。
併し地主の藤沢は、この開墾地の緩慢な成長が待ちきれなかった。彼は移住開墾者の代表格である岡本吾亮にまで自分の気持ちを伝えた。
「ね、岡本さん。開墾もこんで済んだのですし、そろそろ、あの食糧の方を戻してもらわれねえですかね。」
臆病な藤沢は、相談するような調子で、穏やかに言うのだった。
「冗談言っちゃ困りますよ。みんな食うや食わずで働いているじゃないですか。まあ、二三年は我慢してもらうんですね。」
岡本は強情で掛け引きというものを知らなかった。
「だがね、無利子同様の安利子で、いつまでも貸していたんじゃ、手前の方だって堪《たま》りませんからね。なんとか一つ早く……」
「今、そんなことを言ったら、藤沢さん、あなたは殺されるよ。あの人
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